最高裁で逆転勝訴した事件【別府マンション事件】
神崎が原告弁護団に参加していた「別府マンション事件」の第二次上告審事件において、最高裁判所で逆転勝訴判決!!
NHKの報道より
住宅にどの程度の欠陥があれば施工業者などが賠償責任を負うかが争われている裁判で、最高裁判所は「建物が現実的に危険な状態でなくても、欠陥を放置すれば住民に危険が及ぶ場合は賠償する責任がある」という具体的判断基準を示しました。
この裁判は、大分県別府市でマンションを購入した男性が、廊下や壁にひび割れなどが見つかったとして、設計した会社や施工業者などに損害賠償を求めたものです。
最高裁判所は、4年前、「住民の生命や財産に危険が及ぶおそれがあれば賠償責任がある」という判断を示しましたが、審理を差し戻された福岡高等裁判所が「マンションのひび割れなどは現実的に危険なものではない」として訴えを退け、原告が再び上告していました。
判決で最高裁判所は「建物が現実的に危険な状態でなくても、壁が剥がれて落下するおそれがある場合のように、欠陥を放置すれば住民に危険が及ぶ場合は設計者や施工業者には賠償する責任がある」という判断を示し、審理を再び福岡高裁に差し戻しました。
判決について原告の弁護士は「今日の判決は何十年も住み続ける建物は安全性を保たなければいけないということをはっきり示したもので、高く評価したい」と述べました。欠陥住宅の賠償責任の基準をより明確に示した判決は、多くの裁判に影響を与えることになります。
事件の概要
大分県別府市にある鉄筋コンクリート造9階建の賃貸マンションを、平成2年、完成直後に当初の施主から購入したところ、外壁等のコンクリートひび割れやスラブ配筋不良(過大かぶり厚さ、鉄筋量不足)等の欠陥が発見された。
そこで、平成8年に、買主が、直接の契約関係にはない施工業者と設計者に対し、不法行為による損害賠償責任に基づき、修理費用2.7億円、営業損害3.3億円など合計6.4億円を請求して提訴した事件。
裁判の経過
第1審判決(大分地裁平成15年2月24日判決)
補修費用6544万円など合計7400万円の請求認容。
控訴審判決(福岡高裁平成16年12月16日判決)
《本来、売主に対する瑕疵担保責任で処理すべき問題で、請負人に対する不法行為責任を安易に認めるべきでない。「強度の違法性」がある場合(例えば、請負人が注文者を害する意図等)でなければ不法行為責任は成立しない》として、原告の請求を棄却。
第一次上告審判決(最高裁平成19年7月6日判決)
《建物は、居住する者・働く者・訪問する者等の建物利用者や、隣人・通行人等(あわせて「居住者等」という)の生命、身体又は財産を危険にさらさないような安全性を備えていなければならず、このような安全性は、建物としての基本的な安全性である。設計・施工者等は、建築に当たり、契約関係にない居住者等に対しても、建物としての基本的な安全性が欠けないよう配慮すべき義務を負う。そして、設計・施工者等がこの義務を怠ったため建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体及び財産が侵害された場合には、設計・施工者等は、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負う。原審判決のように、違法性が強度である場合に限って不法行為責任が認められると解すべき理由はない》として、控訴審判決を破棄して差し戻し。
差戻審判決(福岡高裁平成21年2月6日判決)
《上告審の「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、建物の瑕疵の中でも、居住者の生命、身体又は財産に対する現実的な危険性を生じさせる瑕疵をいう。現実の事故発生までは必要とされないが、6年以上経過しても現実の事故が発生していないことは、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」が存在していなかったことの大きな間接事実である》として請求棄却。
第二次上告審判決(最高裁平成23年7月21日判決)
(1) 「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは,居住者等の生命,身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい,建物の瑕疵が,居住者等の生命,身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず,当該瑕疵の性質に鑑み,これを放置するといずれは居住者等の生命,身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には,当該瑕疵は,建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当する…。
(2) 以上の観点からすると,当該瑕疵を放置した場合に,鉄筋の腐食,劣化,コンクリートの耐力低下等を引き起こし,ひいては建物の全部又は一部の倒壊等に至る建物の構造耐力に関わる瑕疵はもとより,建物の構造耐力に関わらない瑕疵であっても,これを放置した場合に,例えば,外壁が剥落して通行人の上に落下したり,開口部,ベランダ,階段等の瑕疵により建物の利用者が転落したりするなどして人身被害につながる危険があるときや,漏水,有害物質の発生等により建物の利用者の健康や財産が損なわれる危険があるときには,建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当するが,建物の美観や居住者の居住環境の快適さを損なうにとどまる瑕疵は,これに該当しない…。
(3) そして,建物の所有者は,自らが取得した建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合には,…設計・施工者等に対し,当該瑕疵の修補費用相当額の損害賠償を請求することができるものと解され,上記所有者が,当該建物を第三者に売却するなどして,その所有権を失った場合であっても,その際,修補費用相当額の補填を受けたなど特段の事情がない限り,一旦取得した損害賠償請求権を当然に失うものではない。
掲載文献など
- 最判H23・7・21『消費者のための欠陥住宅判例[第6集]』P452~