「欠陥」「瑕疵(契約不適合)」とは何か?

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欠陥住宅トラブルや建築瑕疵における「欠陥」「瑕疵(契約不適合)」とは何ですか?

(1) 請負契約に基づく新築工事やリフォーム工事等で施工不良箇所があった場合、また、建売住宅等の売買契約で建物に不良箇所があった場合、請負人・売主は、注文者・買主に対し、「瑕疵担保責任」を負うものとされています。
このような問題が一般に欠陥住宅トラブルと呼ばれているもので、「欠陥」と「瑕疵」は同じ意味と考えて頂いて差し支えありません。

この「瑕疵」とは、「瑕」も「疵」もキズを表す漢字ですので(慣用句でも「玉に瑕(きず)」などと言いますよね)、その物の品質・性能に不完全な点があることを意味しますが、最も端的に言えば、「建物が契約の趣旨に適合していないこと」という意味です。

その意味を明確にするため、2020年4月1日に施行された改正民法では、「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に改められましたが、同日までに締結された契約においては、基本的に改正前の民法が適用されることになります。
以下では、「契約不適合」も含む趣旨で、単に「瑕疵」と言います。

(2) では、どのような場合に、建物に「瑕疵」があると判断されることになるのでしょうか。

まず、第1に、当事者間で結んだ契約によって定められた品質・性能を欠如している場合には、瑕疵があることになります。これを「主観的瑕疵」と呼ぶこともあります。

また、第2に、当事者間で特に明確な約束(明示の合意)をしていなくとも、その種の建物として通常有すべき品質・性能を備えるべきことは暗黙の了解(黙示の合意)の内容になっていると考えられますので、そのような一般的に要求される品質・性能を欠如している場合にも、瑕疵があることになります。これを「客観的瑕疵」と呼ぶこともあります。

なお、「瑕疵」は、工学的な概念でなく、あくまでも法律上の概念ですので、瑕疵に該るか否かが当事者間で争いになった場合、最終的な決着は裁判所が法律判断として行うことになります。

(3) 以上のご説明からもお判り頂けるように、瑕疵の判断基準には大きく分けると2種類のものがあります。

第1には、主観的瑕疵の基準となる契約・合意です。

契約内容については、それが直接に記載された書面があれば、最も容易に判断できます。通常の場合、契約書及び設計図書がこれに該ります。

もっとも、実際の契約においては、品質・性能がすべて明示的に定められているとは限りませんし、通常有すべきことが期待されるような品質・性能は暗黙の了解になっていることも多いでしょう。例えば、「雨漏りがしないこと」などといった性能は、わざわざ契約書に記載するまでもなく、当然に建物に要求される性能です。

そこで、第2に、客観的瑕疵の基準が問題になりますが、その基準としては、建築基準法を初めとする建築基準関係法令や、日本建築学会の建築工事標準仕様書(JASS)等が、一般的・標準的な品質・性能を示した技術基準になると考えられます。

他方で、よく誤解されているのが、住宅品質確保促進法74条を受けた平成12年建設省告示第1653号「住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準」にいう「3/1000」とか「6/1000」等といった基準値です。この告示の末尾の「留意事項」に明記されているとおり、これらの数値は、あくまでも住宅紛争審査会の審査における参考基準にすぎず、瑕疵判断基準ではありません。

建築基準法違反の設計や施工は「瑕疵」になりますか?

(1) 前述のとおり、建築基準法令等は、契約で特に合意されていない事項について、契約を補充する一般的・標準的な品質・性能の基準だと考えられますので、その意味で、建築基準法違反の設計・施工は瑕疵になるケースが多いと言えるでしょう。

(2) では、契約当事者間で、建築基準法違反となるような設計・施工内容について合意されていた場合はどうでしょうか。

例えば、工事費を低く抑えるために、請負契約で「建築基準法所定の6割の耐震性能で建築する」という合意をした場合、現に契約どおりの建物が設計・施工されたとしても、契約違反がないので瑕疵はない、ということになるのでしょうか。

そもそも建物は、社会生活の基盤であり、所有者のみならず、そこに居住や就労、訪問等する利用者、また近隣や前面道路の通行人に至るまで広く影響を与える「社会的な存在」と言えます。

とすると、建物に求められる品質・性能は、契約関係の中だけで全て決めてよいというものでなく、広く社会一般との関係でも、自ずから一定の品質・性能が要求されることは疑いえません。例えば、構造安全性や防耐火安全性能等の安全性は、建物に要求される極めて基本的な品質・性能だと言えるでしょう。このような「建物としての基本的な安全性」を損なうような設計・施工を行った場合には、設計者・施工業者は、直接の契約関係にない第三者との関係においても不法行為責任を負うものとされています(最高裁平成19年7月6日判決最高裁平成23年7月21日判決)。

そして、建築基準法は「国民の生命、健康及び財産の保護を図」るために「最低の基準」(同法1条)として定められているものであって、幾多の震災被害や耐震偽装事件等の苦い経験を経て、今日では構造安全性能が建物に要求される極めて基本的な性能であることについては社会的コンセンサスが形成されていると言ってもよいでしょうから、建築基準法令が定める技術基準、とりわけ安全性に関わる基準等は「公の秩序」を形成していると考えられます。

したがって、仮に注文者との間で、「建築基準法所定の6割の耐震性能でよい」などという契約をしたとしても、そのような重大な基準法違反の契約は、公序良俗違反(民法90条)によって無効になるものと考えられています(最高裁平成23年12月16日判決)。

(3) このように、建築基準法違反の設計・施工は、契約当事者間においても、また、第三者との関係においても、「瑕疵」になる可能性が高く、たとえ当事者間で基準法違反の設計・施工の契約をしていたとしても、その契約自体が無効になると考えられます。

仮に契約違反があっても、建築基準法等の標準的基準を充たしていれば「瑕疵」に該らないのでは?

では、当事者間の契約で定められた設計・施工になっていなくとも、建築基準法令や学会基準等の標準的技術基準を充足しており、社会一般では何ら問題なく利用・取引等されていたりするような建物の場合には、瑕疵がないということになるのでしょうか。

この問題については、2つの裁判例をご紹介したいと思います。

1つは、神戸で学生向けマンション(S造)の新築工事において、施主が、阪神淡路大震災のような被害に遭わないように、基準法を上回る耐震強度の建物にしたいと希望して主柱に断面寸法300㎜×300㎜の鉄骨を使用することを契約していたにもかかわらず、実際の施工では250㎜×250㎜の鉄骨が使用されて問題になった事件です。この事件で、業者側は「現況建物でも構造計算上、基準法所定の耐震強度が充足されているから瑕疵はない」と反論しましたが、裁判所は、「本件契約では、当事者間で、建物の耐震性を高め、耐震性の面でより安全性の高い建物にするため、300㎜×300㎜の鉄骨の使用が特に約定され、契約の重要な内容になっていたから、約定に違反した工事には瑕疵がある」との判断を示しました(最高裁平成15年10月10日判決)。

もう1つは、身長137㎝の小柄なお年寄りがハウスメーカーに注文した住宅において、窓が高くて手が鍵に届かない、台所の換気扇スイッチが高くて押せない等の不具合が問題になった事件です。この事件では、業者側は「メーカーの標準仕様なので瑕疵ではない」と反論しましたが、裁判所は、「単身生活ゆえ住宅設備等が身長に合った高さになるよう依頼して契約内容になっていたから、瑕疵がある」との判断を示しました(京都地裁平成13年10月30日判決)。

欠陥住宅トラブルに巻き込まれないために気をつけなければならない点は何でしょうか?

以上から言えることは、①契約(合意)に反する設計・施工は、たとえ、建築基準法や標準的仕様を充足していたとしても、瑕疵になるということ、また、②建築基準法令等に反する設計・施工は、たとえ、そのような内容の合意をしていたとしても、瑕疵になる可能性があるということです。
②の場合、常に合意が公序良俗違反で無効になるとは限りませんが、例えば、その建物が第三者に転売された場合、転得者から、売主(施主)も、設計者・施工業者も、責任追及される可能性があります。

だとすると、欠陥住宅トラブルに巻き込まれないには、第1に、施主と建築士・施工業者の間で、施主の希望する内容、建築士・施工業者が対応できる内容をきちんと確認し合って、契約をすべきだということが言えるでしょう。
そして、トラブル防止のためには、確認した内容は契約書や設計図書に明確に記載すべきです。
他方、明確に記載した以上、契約当事者は互いにその記載に拘束されるということにも注意が必要です。

第2に、建築基準法令に違反するような内容の契約を締結すべきではない、ということです。