建築基準法改正による「4号特例」の縮小

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欠陥住宅の温床「4号特例」とは

(1) 4号建物とは何か

現在の建築基準法(以下では「法」といいます)の下では、ごく大雑把に言えば、①木造の2階建もしくは平家建で延面積500㎡以下の建物、又は、②鉄筋コンクリート造もしくは鉄骨造の平家建で延面積200㎡以下の建物は「4号建物」と呼ばれています。

戸建住宅、とりわけ、木造住宅の非常に多くが4号建物にあたります。

法は、この4号建物に対し、「手続」に関する規定と「実体」に関する規定の両方で特別扱いをしています。

(2) 4号建物に対する手続的特例

手続面での特例としては、4号建物以外の建物は、建築確認手続・検査手続において構造審査・検査が要求されていますが、4号建物だけは、建築士が設計・工事監理を行った場合に構造審査・検査が省略されることになっています(法6条1項4号、6条の4第1項3号、施行令10条3号イ等。いわゆる「4号特例」)。

それどころか、都市計画区域外では、そもそも4号建物には建築確認申請すら要求されていません。

さらに、4号建物以外の建物では設計図書の保存が義務付けられているのに対し、4号建物だけは2020年まで法令上の保存義務すらありませんでした。

(3) 4号建物に対する実体的特例

実体面での特例としては、4号建物以外の建物がすべて構造計算が法的に義務づけられているのに対し(法20条1項1~3号)、4号建物だけは、構造計算をせずとも、仕様規定のみ充たせばよいルートが用意されています(法20条1項4号イ)。

しかも、この仕様規定ルートの場合、特に木造建物に適用される仕様規定が非常に不十分です。

まず、①規定水準が不十分なものとして、例えば、耐力壁に関する規定が施行令46条4項にありますが、構造計算をすると、施行令による場合の1.5倍以上の壁量が必要になります。このような問題は基礎配筋の規定等でも見られます。
また、②規定項目の不十分なものとして、梁の断面の規定がない、水平構面(床等)の剛性の規定が極めて不十分、柱・壁の直下率の規定がない等といった問題があります。

このように法令の仕様規定が《必要条件ではあるが、十分条件になっていない》結果、法令の仕様規定を外形上すべて遵守していても耐震性が不十分な危険な建物になってしまう可能性が少なからずあるのです。

(4) 「無法地帯」と化していた4号建物

4号建物でも、構造関係の設計図書(軸組図や伏図等)を作成する必要があることは当然ですが、前述の手続特例により確認申請上で提出不要とされる結果、実は、4号建物の多くで構造図面が作成されておらず、材木業者が作るプレカット図面(施工図の一種で設計図書ではない)で代替しているのが実情です。

その結果、「4号特例は欠陥住宅被害の温床である」と以前から指摘されてきました。
実際、研究者グループがプレカット材を用いた4号木造住宅100棟について構造計算で検討した結果、100棟全てでNGが出たという報告も学会誌に発表されています。

法改正を求める運動と改正の機運

(1) 日弁連等による運動

以上のような4号建物をめぐる問題状況を抜本的に改善すべく、近年、私たちは、日弁連消費者問題対策委員会等を中心に積極的に運動を行ってきました。

すなわち、日弁連では、2017年4月8日、シンポジウム「木造戸建住宅の耐震性は十分か?-熊本地震を契機として4号建築物の耐震基準を考える-」を開催して問題提起を行い、2018年3月15日には「4号建築物に対する法規制の是正を求める意見書」を出しました。
そして、同意見書を踏まえ、2018年10月18日、シンポジウム「すべての戸建住宅に構造計算を!-安全な住宅に居住する権利を求めて-」を行い、4号建物をめぐる法制度の改正を強く訴えてきました。

具体的には、
①4号建物も構造計算を例外なく義務付けること、
②もし仕様規定ルートを残すならば、構造計算ルートと同等以上の安全性を確保できるように仕様規定を全面的に改めること(壁量規定の見直し、床倍率の導入、梁断面規定の創設等)、
③4号建物の手続的特例を廃止して構造審査・検査を例外なく義務付けること、
以上が繰り返し要求してきた内容です。

並行して、欠陥住宅被害全国連絡協議会(欠陥住宅全国ネット)でも、2016年11月26日開催の第41回金沢大会において、「戸建住宅の法規制の見直しを求めるアピール」を採択しています。また、京都弁護士会も、2018年2月22日、「建築基準法6条1項4号所定の建築物に対する法規制の是正を求める意見書」を出しています。

(2) 建築士法改正による図書保存義務化

このような一連の運動の中、2020年3月1日施行の改正建築士法施行規則によって、4号建物についても15年間の図書保存が義務づけられました。

(3) 改正省エネ法案議論における運動

後述の改正省エネ法案等の議論が行われる中、改めて4号建物に関する法制度の改正を訴えるため、日弁連は2021年12月24日付意見書を、京都弁護士会でも同月28日付意見書を出しました。

法改正による「4号特例」縮小等

(1) 今般の省エネ法・建築基準法等の改正

2050年カーボンニュートラル実現に向け、住宅・建物の省エネ対策を推進すべく、「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」が2022年6月17日に公布されました。

この法改正は、①建築物分野の省エネ対策の徹底、②吸収源対策としての木材利用拡大等、が目的とされています。
①では、建築物省エネ法改正により、省エネ性能の底上げやストックの省エネ改修等のための法制度が整備され、②では、建築基準法改正により、木造の防火規制・構造規制、確認・検査体制等の見直しが図られました。

(2) 4号特例(手続的特例)の縮小

以上のように多岐にわたる法制度改正ですが、4号建物に関して言えば、従前の手続的特例(いわゆる「4号特例」)が大幅に縮小された点が注目されます。

すなわち、2階以上又は延面積200㎡超の建物は、木造・非木造を問わず、構造審査・検査が要求される(都市計画区域外でも建築確認の対象となる)ことになりました。
つまり、審査省略の特例は、「平家建且つ延面積200㎡以下の建物」のみに限られることになったのです(新3号特例)。

これは、確かに、省エネ基準の審査対象と同一で、省エネ規制改正に伴うものにも見えますが、現行4号建物について審査項目が省エネ基準のみならず構造等に及ぶことを直視すれば、4号特例を事実上廃止に近づけたものと言ってもよいでしょう。

(3) 実体規定の改正の動向

他方で、2階建以下且つ延面積300㎡以下(改正前は500㎡以下)の木造建物は、依然として構造計算を要求されない仕様規定ルートが残されました。
しかも、建物の省エネ化は、断熱材等の増大に伴って建物の高さの高度化と自重の増大化を招くため、構造安全性にとって不利ないし危険な方向に働きます。

そこで、国交省では、ZEH水準の建物に関し、新たな壁量規定(現施行令46条4項)を検討しており、床倍率や横架材(梁等)、基礎等の仕様規定の見直しも検討の俎上に上がっているようです。
2022年秋にも必要壁量案が公表され、2025年改正法施行に向けて急ピッチで議論が進められていくため、それらの動向を常に注視し、臨機応変に必要な意見を出してゆかなければなりません。

【2022年8月記】